モノゴトの持つ二面性は、私の制作の中で大きな関心ごとです。
それはジンテーゼに向かう手前の段階で、世界はテーゼとアンチテーゼがせめぎ合っています。
せめぎ合っている状況こそが、「現在」という時間の中の一瞬です。
しかし、ヘーゲルが唱えた弁証法よりも世界の模様は複雑に構成されています。
楽しいのアンチテーゼは、楽しくないという否定ではありません。
面白い、怖い、美しい、憎い、もしくは悲しいといったように全く別の独立したものになります。
ヘーゲルの歴史的時間観の中では、それらのものがジンテーゼに至りますが、
現在を生きている人間にとってそんなことは、おかまい無しです。
答えのない混沌の中に現在があり、その状況を楽しむことこそが今を生きている私たちです。
私の表現する二面性は対立や否定ではなく幾つもの多様性のある世界観を認知する行為です。
その上で時間をテーマにすることは、時間が未来へ一方方向に進むという理にとらわれず、
過去と向き合い、今という時間のパラレルワールドを考えます。鏡に映った自分は、ほんの少し過去の自分が映し出されます。
宇宙(世界)を湾曲させ、くるっと一回りしてのぞきみた自分自身は、現在の姿ではなく未来の自分になります。
紙の上の直線は紙をくるっと丸めれば、空間で自由に湾曲し直線ではなくなります。
時には、はじめとおわりがつながります。今回の展示では宇宙の湾曲を観測できるような作品を見せたいと思います。
【クニト略歴】
1981年奈良県生まれ。美術家。
2007年金沢美術工芸大学大学院陶磁コース修了。
2018年金沢美術工芸大学大学院彫刻分野博士号取得。
モノゴトの二面性をコンセプトに樹脂や布、やきもの、木材、光、ガラス、その他さまざまな素材を用いて、インスタレーションや彫刻などの幅広い表現で制作している。
金沢美術工芸大学、 北國銀行は 、 教育 ・ 研究の推進と地域社会の発展や活性化などに寄与することを 目的に、平成22年6月に包括連携協定を結びました。今回の展覧会はその協定に基づき開催するものです。